読書感想文「『人間標本』を読んで」

2025 - 12 - 20

脚色とネタバレを含みます。

ウィンチェスター・オバケやしきー多々買え…多々買え… Advent Calendar 2025の8日目の補欠記事です。

湊かなえファンの母、食わず嫌いの自分

母は現在、宮部みゆきが一番好きで、次に湊かなえが好きです。
母の実家がまだあった頃に母とその姉の部屋に行くと、本棚にはアガサ・クリスティも並んでいました(壁にはジョン・ローンのポスターが貼られていました)。
しかし、僕は宮部みゆきも湊かなえも読んだことがありませんでした。
ティム・バートンを始めとして母の趣味の影響を多大に受けているのに、そしてアガサ・クリスティを含む他の作家の小説は借りて読んだことがあっても、宮部みゆきと湊かなえには手を出したことがありませんでした。
宮部みゆきに食指が動かない理由は自分でもよくわからないのですが、湊かなえについてははっきりと食わず嫌いの理由がありました。
「イヤミス」と「母娘のどろどろとした話ばかり」という偏見です。
普段の僕のオタクとしての投稿をご覧になっている方は、僕がハッピーエンド、そうでなくとも登場人物の主観的には救いがあるビターエンド、あるいはメリーバッドエンドが好きだということをご存知だと思います。
湊かなえの作品はその対極にある、というイメージがずっとありました。

母のおつかい

そんな中、いつも通り母は文庫化した湊かなえ作品を求め、僕はおつかいで『人間標本』を買いました。
表紙が(いくら紙に印刷されているだけの画像だとしても)蝶で気持ち悪い。
蝶の画像に手を触れないよう白い縁を摘んで裏返しました。
あらすじが目に入ります。
いつもの湊かなえのイメージとは違う物語が記されていました。
このひとが書く父と息子の物語はどんなものだろう。
おつかいを終え、母に『人間標本』を渡した後も、気になって仕方がありませんでした。
ダイニングテーブルの上に置かれた『人間標本』に挟まれた栞はゆっくりと先へ動いていきます。
約半月して、栞が全体の半分に到達したところで僕は我慢できなくなりました。

初めての湊かなえ

休みの日、母がいない間に『人間標本』を手に取りました。
主人公の榊史朗は自分の息子である至を含む六人の美しい少年を蝶に見立て標本にしたと書きます。
淡々としたレポート形式の表現はモキュメンタリーホラーの類が好きな身にはとてもわくわくさせられるものでした。
その上、書き記されているのはグロテスクながらも美しく加工された美少年の死体なのですから尚更です。
史朗の実父に対する屈折した思いも、「父と息子」の関係が鎖のように繋がっていることを思わせました。 これまでの偏見が嘘のように、僕は『人間標本』という作品にのめり込んでいきました。

ここからは本編や『人間標本・零』のネタバレを多分に含みます。

最終的には、この作品も偏見通りに母と娘の物語でした。
史朗の幼馴染である芸術家の留美は、自分の娘の杏奈に自分が行おうとした人間標本という恐ろしい作品制作を「後継者にする」という甘言で引き継がせ、至は杏奈の犯行に手を貸しながらも良心の呵責に耐えられず父に己の人生の幕引きを託した——そんな救いのない物語です。
やっぱりそういう話しか書かないひとなんだ、と思いながらも、僕は『人間標本』について考えるのをやめられませんでした。

『人間標本』

榊史朗

小さい頃から

榊至

少年たち

赤羽輝

白瀬透

一ノ瀬留美

一ノ瀬杏奈

彼女の人生はなんだったのだろう。

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